「フリーランス」をどう定義づけるか

唐津 周平

唐津 周平

リサーチャー

フリーランスのことを長らく研究していますが、いつも頭の片隅でもやっとしている
「フリーランスの定義問題」について書いてみたいと思います。

大学院に入ってすぐこの問題は立ちはだかり、様々な方から
「フリーランスの定義ってなんなの?フリーターと何が違うの?」
などの質問が飛び交いました。

これについては「雇用契約の有無」でおおかた整理できるのですが、
次は「じゃあ自営業ってことになるけど、個人事業主って言葉も昔からあるよね。それとは何が違うの?」という質問が出ます。

これについては「伝統的自営業」と「雇用的自営」といった整理が参考になるのですが、
「フリーランス」と定義づけるにはもう一押し必要で、昨今は「フリーランス=人を雇っておらず、店舗も有していない、農林漁業以外の自営業者または1人社長」という定義が統計調査上、つくられています。

そしてこの定義に則って、ようやく「フリーランス」の統計が基幹統計の1つである「就業構造基本調査(2023)」に初めて公表されることになりました。

「本業がフリーランスの人は3.1%(約6700万人のうち約209万人)」など
様々な働き方と比較して「フリーランス」の立ち位置が俯瞰できるレポートになっています。

自営業の多様化と海外におけるフリーランスの捉え方

ただ、このフリーランスの定義に「むむむ」と思う方もいるかもしれません。

かく言う私も
「最近フリーランス漁師兼出張料理人してる人に会ったな~」とか
「会社員として仕事をしつつ、兼業でフリーランス的な仕事している人も多いよな~」とか
「何をもって本業と副業を分けているんだろう」とか
思いながら現時点での「フリーランス」の定義に則って研究しています。

ただ、働き方が多様化する中で「自営業の多様化」も進んでおり、一括りに「フリーランス」では、より踏み込んだ実情や課題が見えづらいのではないか?とも思っている今日この頃です。

そんな問題意識を持ちつつ、調べものをしていたところ
「Freelance Forward 2020」というupwork社のレポートから
フリーランスを5つのタイプに分類する事例を見つけました。

以下ざっくりですが、5つのタイプの説明をレポートから引用します。

1.Independent Contractors(雇用されずプロジェクトで関わる伝統的なフリーランス)
2.Moonlighters(フリーランスの仕事もする専門家.例:夕方以降から非営利のプロジェクトに関わるエンジニア)
3.Diversified Workers(複数の収入源を組み合わせる人々.例:スタートアップ企業にパートタイムで働き、Airbnbの管理も行い、ウェブデザインの仕事も個人で請け負う)
4.Freelance Bussiness Owners(1人以上の従業員を抱え、自分を事業主と認識しているフリーランス)
5.Temporary Workers(一時的に1つのプロジェクトに割り当てられるor派遣される個人など)

                 参考:レポートから原文を抜粋

ちなみに、このレポートにおけるフリーランスの定義は
「過去12か月以内にプロジェクトベース(業務委託等)の仕事に従事した個人」となっています。

この定義は「仕事の受注」に焦点が当たっているため、
どの程度の人がフリーランス経済(Sharing Economy / On-Demand Economyなど)に接触しているのかにも関心があるのだと思います。

そのため、最初に紹介したフリーランスの定義よりもかなり広範囲でバラエティーに富んだ人達を
「フリーランス」として捉えていることがわかります。

また、上記5つのタイプのうち1~3が大部分の割合を占めますが「Diversified Workers」が2019年と比べて増加傾向ということもこのレポートの中で報告されています。

つまり「Portfolio Work(いわゆる複業)」のような分散的な働き方が増加傾向とも解釈できそうで興味深いです。

フリーランスの生態を探求する

以上を踏まえると、
・「業務の切り出し(外部化)」が容易になっていること
・「副業・兼業」や「テレワーク」がまだ少数派ながらも容認されていること
・その結果、「会社」や「組織」の形にも様々な選択肢が増えていること
などを含めて「なぜ今フリーランスという選択肢を選ぶ人が増えているのか?」
を考えることが大切ではないかと感じています。

また、リクルートワークス研究所は「1年で4割のフリーランスが異なる就業形態に移行する」ということも報じています。そのため、複数年の時間軸でフリーランスを捉えないと刻一刻と変化する人達の本質は見えづらいかもしれません。

フリーランスを定義して、統計調査を行い、そこからどのような傾向を持った人がどの程度いるのか
観測することは大きな意義があると思っています。

その一方でここまで述べてきたように
「現状のフリーランスの定義ではいろんな人が混在していて、ちょっとよくわかんない」のも実情だと思います。

だからこそより細分化された定義づけや分析も必要になるのですが、別の視点では、いろんな生き方・働き方にチャレンジする「フリーランスという心意気・生き様」のような生態を明らかにすることが大切なのかもしれません。

そんな伝統的な研究スタイルでは「研究」として成立が難しい(時間がかかる)、でも研究する上で大切なこと、面白そうなことなどをここでは書き綴っていこうと思います。

今回は社会保障のことや米づくりのことを書けませんでしたが、次回はそのようなテーマとの関連性についても整理していきたいです。