起業家に必要な「勘違いする力」とその育て方
昨年から女性起業家支援のお仕事に携わっています。事業規模も事業フェーズも異なる様々な女性起業家(とその卵)にお会いして気付いた、起業家にとって必要なチカラについてまとめてみます。
目次
- 自分の絶対を勘違いするチカラ
- 誰かの絶対を冷静に分析するチカラ
- 絶対と絶対を結びつけるチカラ
- その上で再度圧倒的に勘違いするチカラ
- 勘違いするチカラの源
- 勘違いするチカラの育て方
自分の絶対を勘違いするチカラ
第一段階に必要なのが「自分の絶対を勘違いするチカラ」です。勘違いというと言葉が良くないかもしれませんが、言い換えれば「圧倒的に自分と自身の事業を信じるチカラ」と言えます。私の悩みや感じている課題は絶対に他にも必要としている人がいるはず。私の事業は他にはない独自のものだから絶対に私がやる必要がある。私がやろうとしていることは誰かの悩みや苦しみを絶対に助けるものである。そんな「絶対」を自分や自身の事業に見出せる人は、起業の第一歩を踏み出せます。逆に言えば、この「絶対」がなければ、誰にも強制もお願いもされていないのに、わざわざリスクを冒して、お金を使って、起業する意味なんてないわけです。自分や自身の事業に対して「絶対」に必要である、私がやらねば誰がやる、そう勘違いすることが、起業の第一ステップです。
誰かの絶対を冷静に分析するチカラ
とはいえ、皆様ご存知の通り、大概の商品もサービスも既に世の中にあるわけです。マーケティング的に言えばSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)で独自の位置を占めるのは容易なことではありません。第一段階で絶対に私がやる必要があると信じた事業でも、冷静に検索や分析をしてみると、だいたい類似の商品やサービスは存在します。そこで、競合や顧客ニーズを改めて冷静に分析した上で、自身の商品・サービスが「誰かにとって絶対に」必要な理由を見出す必要があります。
突き詰めれば、起業家は旗を立てる仕事です。やりたいという気持ちだけが必要条件で、それ以外の能力はすべて十分条件。なので、この「冷静に分析するチカラ」は外部の専門家の力を借りてもいいでしょう。でも、冷静に分析することの必要性だけは、起業家が認識しておく必要があります。なぜなら、この段階を経ないとずっと小さい事業のまま、「私の課題」のまま、成長させられないからです。
絶対と絶対を結びつけるチカラ
第3段階として、自身の絶対(自分がやらなきゃ誰がやる)と誰かの絶対(絶対にその商品やサービスが必要)を結びつける必要があります。マーケティング的にいうとプロダクトマーケットフィットというやつです。この段階で初めて個人の課題が社会の課題と結びつき、自身の事業が社会課題を解決する手段となります。
よく社会課題解決をテーマにしているスタートアップを見かけますが、第一段階の「勘違いするチカラ」が強すぎて、第二段階の「誰かの絶対を冷静に分析する」ことを怠っているために、残念ながら事業が独りよがりに見えてしまう場合も少なくありません。「自分の課題」を「社会の課題」に昇華できない状態ともいえます。自分の絶対と、誰かの絶対を結びつけることで初めて、自身の商品やサービスが社会的に必要であると、第三者に伝えられるようになるのです。
その上で再度圧倒的に勘違いするチカラ
第3段階で自社の事業を社会課題に結びつけることができ、事業を推進していくための準備はできました。しかし、残念ながらこれだけでは事業を継続していくには不十分です。ここまでの3つの段階を経て、さらに必要なのが「その上で再度圧倒的に勘違いするチカラ」です。前述の通り起業家は旗を立てることだけが必要条件で、それ以外の様々な機能や能力は仲間や外部専門家に任せればいいのです。ただ、仲間や外部専門家を巻き込んでいくために、熱量高く一緒に社会を変えていくために、起業家自身が、この事業は絶対に必要であると圧倒的に勘違いし、相手も圧倒的にに勘違いさせ、仲間を増やしていく必要があります。そうでなければ事業を拡大することもできず、仲間を増やすこともできず、ずっと小さな事業に留まったままです。
また、圧倒的に勘違いしてもらう対象は仲間だけでなく取引先や顧客も含まれます。自分が勘違いしない限り、取引先も顧客も魅了することはできません。第一段階とは違った意味で、それでもやはり再度起業家は圧倒的に勘違いし、一緒に圧倒的に勘違いしてくれる仲間や顧客を増やしていく必要があるのです。
勘違いするチカラの源
では、この「圧倒的に勘違いするチカラ」の源はなにか。それは他の人は経験できないような、「深く苦い経験」だと思います。思い出したくもない過去の失敗、蓋をしておきたい黒歴史、後一歩で危うく踏みとどまったあの日。そんな深く苦い経験こそが、圧倒的に勘違いするチカラの源になります。その経験が深ければ深いほど、苦ければ苦いほどに、他の人には経験できず、事業に説得力が増し、社会課題としての質が高まり、応援してくれる仲間や外部専門家も増えるでしょう。
逆に深く苦い経験がなければ、他の人がやっても同じでは?あなたがやる必要ある?となり、説得力が薄くなってしまいます。たまに大きな社会課題を掲げている起業家の方にお会いすることもありますが、今まで海沿いで暮らしたことがない方が「海洋汚染をなんとかしたい」と言ったり、マイノリティになった経験がない方が「ダイバーシティが大事」と言ったり、いまいち説得力がないなと感じてしまいます。逆に、今まさに深く苦い経験をしている方、その経験は誰かの悩みに繋がっていて、意味のある事業になる可能性があるはずです。
勘違いするチカラの育て方
ここまで「勘違いするチカラ」という言葉を使ってきましたが、一般的な用語で言うと「自己肯定感」「セルフエンパワメント」に近い概念としてこの言葉を使っています。つまり「自分を信じる力」、一言で言うと「自信」です。第一段階の自分しかできないと言う自信、第二段階の冷静な分析を経て、第三段階でやっぱり自分がやるべきであるという自信。この自信こそが起業家に不可欠な素養であるといえます。
「能力」ではなく「素養」と言う言葉を使ったのは、自信は後天的に身につけられる能力ではなく、先天的あるいは幼少期に養われる素養だからです。自信をなくす方法は実はとても簡単で、「誰かと比べる」「ランキングを示す」ことで、自信という素養は簡単に損なうことができます。誰かと比べて全ての項目が優っている人はいませんし、ランキングは1位以外は全て「それ以外」になってしまう、簡単に自信を損なうことができるのです。今は変わってきているかもしれませんが、従来型の学校教育は正にこのパターンといえます。
誰とも何とも比較せず、良いところを褒め、のびのび育てることが、自信という素養身につけるコツです。そんな自信という素養をもった人が、きっと起業家に向いているのだと思います。起業の是非はここでは議論しませんが、起業に少しでも興味のある方の参考になれば嬉しいです。