いつか当たり前になる日まで_プレミアムロールケーキの15年史。
先日何気なく旦那様がお土産にローソンで買ってきてくれたスイーツに衝撃を受けた。その名も
ワンハンドなプレミアムロールケーキ
一眼見た瞬間、一つの時代が終わって、新しい時代が始まったんだな…そんな感慨が押し寄せ、家族団欒タイムに思わず目頭が熱くなりました。
プレミアムロールケーキが生まれて、世に羽ばたいていく様を少しだけ近くて見ていた者として、ワンハンドなロールケーキは、そのくらいの衝撃だったのです。あの頃のことはあまりnoteに書いてきませんでしたが、なぜこのワンハンドなロールケーキが一つの時代の終わりを象徴しているのか、プレミアムロールケーキの15年史を綴ってみたいと思います。
目次
- それはワンハンドの否定から生まれた
- ちょっとしたご褒美が当たり前に
- ワンハンドロールケーキの衝撃
- ロールケーキは新たな時代へ
それはワンハンドの否定から生まれた
プレミアムロールケーキが生まれた2009年以前、コンビニのスイーツの主な購入者は男性でした。お弁当と一緒に手軽に食べられる、シュークリームやエクレアなど、いわゆるワンハンドスイーツが売れ筋。少し手が込んだスイーツは販売してもなかなか定番商品に残ることが出来ず、消えていくことを繰り返していました。
そんな中、もっと女性のお客様に来ていただこうという全社方針のもと、いくつかの社内横断型プロジェクトが始まります。その一つがデザートブランディングプロジェクトでした。
それまで商品開発は主に商品部の仕事でした。しかしプロジェクトには商品部だけでなく、マーケティング、広報、営業、原材料調達など、多様な部署のメンバーが参画。女性へのヒアリングからはじまり、ペルソナの設定、ブランドの定義、エリアを限定したテストマーケティングなど、これまでなかった様々な挑戦をしました。商品開発のこだわりはいくつかのWeb記事として残っているので興味があればご覧ください。
開発秘話|プレミアムロールケーキ|洋菓子のコスモフーズ株式会社cosmo-foods.com
ちょっぴりご褒美、お仕事女子の心のデトックス。コンビニスイーツ開発のひみつ | ダ・ヴィンチWebコンビニスイーツの定番、プレミアムロールケーキ 一昔前はコンビニスイーツのシェアといえば圧倒的に男性だったって知っていましddnavi.com
プロジェクトメンバーの試行錯誤を経て、女性がホッとひと息つく、自分へのちょっとしたご褒美、そんなコンセプトで、Uchi cafe sweets(ウチカフェスイーツ)ブランドが誕生しました。なかでも、当時は珍しかった生クリームを100%使用したクリームを使用したプレミアムロールケーキはイチオシ商品でした。実はこのロールケーキ、ご褒美というコンセプトと、ロールケーキを横に倒した独特の形状から、「スプーンで食べる」をキャッチコピーとして販売されたのです。さらに、無償で提供しているスプーンでは先が丸くて美味しい生クリームを全て掬えないことから、ウチカフェスイーツ専用のスプーンまで作り、女性の「自分へのちょっとしたご褒美」という世界観を大切にしたのです。
ちょっとしたご褒美が当たり前に
そんなプロジェクトメンバーの努力の甲斐あってか、プレミアムロールケーキは大ヒット。売れに売れてコンビニスイーツの歴史を変えました。チョコや抹茶などフレーバーも展開し、ウチカフェスイーツの看板商品となって行きます。
ここに来て競合各社も黙っておらず、セブンイレブンやファミリーマートも相次いでロールケーキを発売。新聞やニュースサイトでは「コンビニロールケーキ戦争」の文字が踊りました。コンビニのロールケーキは、シュークリーム、エクレアに次ぐ定番商品となり、当初ローソンのスイーツプロジェクトメンバーが思い描いていた、女性のちょっとしたご褒美が、色々なお店で当たり前に手に入る世の中が実現されたのです。
ワンハンドロールケーキの衝撃
時は流れて2024年。第二次安倍政権で「女性活躍」が掲げられ、「保育園落ちた日本しね」が話題となり、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数146か国中116位に驚いたり呆れたりして、女性版骨太の方針の2023が発布され、息つく暇もないまま、気がつけば2024年。
女性がホッとひと息つくための、自分へのご褒美だった、スプーンで食べるロールケーキ。急いで口に放り込むのではなく、お気に入りのコーヒーと一緒に贅沢なひと時をくれたロールケーキ。コンビニスイーツを侘しいものから、ワクワクするものに変えてくれたロールケーキ。
そんなプレミアムロールケーキが、なんとビックリ、ワンハンドで登場したのです。
その名も「ワンハンドなプレミアムロールケーキ」。ここまで読んでいただいて、なぜ私が独り感傷に浸っていたか、少しはご理解いただけたら嬉しいです。
もちろん今まで通りのロールケーキは現在です。なんなら、どっち!?対決させられてます。
当時のプロジェクトのメンバーで、今もスイーツに関わっているメンバーはほんの一握りでしょう。私も今は遠く離れてしまい、ローソン社内でどのような議論を経てワンハンドなロールケーキが発売されるに至ったのか、知る由もありません。ただただ、少しだけ昔を知る者として、たくさんの人たちの挑戦と、挫折と、努力によって生まれ、たくさんの人たちを少しだけ癒し、笑顔にさせたであろうプレミアムロールケーキがその役目を終え、一つの時代の終わったことを噛み締めたのです。
ロールケーキは新たな時代へ
と、ここまで少しおセンチに書きましたが、そんなに悲しいことだとは捉えていません。ロールケーキは、ローソンこそ定番商品として品揃えされていますが、他のコンビニではとっくに姿を消しています。これだけ美味しいスイーツが手を変え品を変え登場する現代、ロールケーキ自体はもう衰退期に入っていると言っても過言ではないかも知れません。であれば、話題性もあり手に取りやすいワンハンドタイプを出して、どっち!?対決することでもう一度ロールケーキを活性化させようという狙いがあるのかも知れません。
例えるなら、最近あまりテレビに出なくなった大御所が若手芸人の番組に出ることで再ブレイクするような。戦って勝ち得た当たり前が本当の当たり前になった瞬間、日常の中に埋没していくような。むかし色々あったけどこうして笑える今が一番幸せみたいな。…だんだん遠くなってきましたが、ワンハンドなロールケーキは、ロールケーキがあったからこそできた商品であり、ロールケーキがコンビニスイーツの歴史を変えた歴史の上に成り立つものなのです。きっとあの頃の戦いは無駄ではなかったし、あの頃の誰かの笑顔は今に繋がっているんだろうなと、そう思うのでした。
というわけで私も久々にロールケーキを食べてホッとひと息ついています。ちょっとしたご褒美、笑顔をくれるロールケーキが、私はずっと大好きです。
【2024/06/29追記】
当時をよく知る方からご指摘いただき一部追記と修正しました。スイーツプロジェクトではなく、正式名称は「デザートブランディングプロジェクト」だそうです。というのも2009年時点ではスイーツという言葉は存在したものの、コンビニのデザートはそのイメージから程遠くスイーツと呼ぶ以前の状態だったので、まずはデザートのイメージを向上していこう、という意味をこめたプロジェクト名だったそうです。今や当たり前に使われている「コンビニスイーツ」という言葉も、ロールケーキと同様に様々な人の努力で当たり前になった言葉なんだなと実感しました。